コラム回心転意
最近の保険業界では、保障を確保しながら、資産運用にも利用可能というメリットを持つ一方で、一般的な保険と異なるリスクがある保険商品、「リスクの高い保険」がトレンドとなっています。当コラムをお読みの方の中にも、こういった保険を銀行窓口や代理店で勧められたことがあるかもしれません。
しかし一方で、「リスクの高い保険」の契約を巡る苦情も残念ながら増えています。
今回のコラムでは、この「リスクの高い保険」について、
・なぜトレンドとなったのか?
・どういう仕組みの保険なのか?
・勧められたときに気を付けることとは?
といったことを、複数回に分けて解説をしていきたいと思います。ぜひ保険選びの際の参考にして下さい。
「リスクの高い保険」とはどのような保険か?
保険なのに「リスクが高い」とは、一見矛盾しているようですが、つまりは、
保障される金額(=保険金)
保険の掛け金(=保険料)
解約したときに払い戻されるお金(=解約返戻金)
以上のいずれか(または全部)が、金利情勢や市場価格、為替レート等により変動する保険のことで、具体的には、
積立金等を「日本円以外で運用する保険(=外貨建て保険)」
積立金等を「株式などの金融商品で運用する保険(=変額保険)」
などを、当コラムでは「リスクの高い保険」と呼びます。死亡保険金等が、実際に受け取るときの為替レート等により、金額が変わってしまう危険性(=リスク)がある、というわけです。
もちろん、その時々の価格状況によっては、想定した金額よりも多く受け取ることが出来るとも考えられるため、通常の保険よりも「資産運用の面が強調された保険商品」と言えます。
「リスクの高い保険」販売増加の背景
「年金問題(*1)」や、記憶に新しい「老後2,000万円問題(*2)」などの話題が出てきたためか、ここ10年程で資産運用に対するニーズが急激に高まってきました。将来の見通しが立たないという不安の中で、少しでもお金を増やして備えたい、と考える人が増加したのです。
ところで皆さんは「お金を貯める方法」と聞いて、何を真っ先に思い浮かべますか?
まず頭に浮かぶのは、銀行等の「定期預(貯)金」でしょうか。確かに、銀行等の預貯金は「お金を貯める方法」として有効です。
しかし今は超低金利時代。「定期預(貯)金」ではただお金を貯めていくことはできたとしても、増やすことは難しくなっています。
話は少しだけそれますが、「72の法則」と呼ばれる、複利で運用した時に元本が2倍になるおおよその年数がわかる計算方法があります。資産運用の知識がある方は、聞いたことがあるかもしれません。
72 ÷ 金利 = 元本がおおよそ2倍になる期間
あくまでも概算ではありますが簡単に求めることができます。(なぜこの計算式で求められるか、についてはここでは触れません。多くの数学者や経済学者の解説が公表されていますので、興味のある方は調べてみてください。)
この法則を使って、現在の定期預金の金利で運用した場合どうなるかを計算してみましょう。
大手都市銀行の定期預金金利 0.002%(*3)
72 ÷ 0.002(%) = 36,000
ネット系銀行の定期預金金利 0.01~0.2%(*3)
※0.2%で計算
72 ÷ 0.2(%) = 360
大手都市銀行で預けた場合の金利下では、元本を2倍に増やすためにおよそ36,000年(!)かかることになります。ネット系銀行については、大手都市銀行よりも金利はかなり高いものの、やはり資産運用の手段としては、効率がよくないようです。
かつては「定期預(貯)金」も、資産運用手段として魅力的な商品であったことは間違いありません。しかしながら、それももはや昔のことであり、「定期預(貯)金」を主力商品としていた銀行各社は、それらに代わって販売できる金融商品を求めるようになります。
また、国も(積み立て)NISAやiDeCo等の制度を始め、国民に対して自己責任型の資産運用を推奨することで、お金をただ貯めるのではなく、運用し増やしていく必要性が、一般的に広く認められるようになりました。
このような状況の中注目されたのが、資産運用と保障の両方の側面をもつ「リスクの高い保険」です。
これらの保険商品は最近作られたものではなく、一部の保険会社では以前より販売されていましたが、2007年12月に銀行窓口での保険販売が全面解禁となったことを皮切りに、定期預金の代わりとなる資産運用型の商品として提案されるようになっていったのです。
*1 2000年代に発覚した公的年金に関する諸問題。年金記録の漏れ、改ざんや年金保険料の流用の問題などの総称です。
*2 2019年6月に金融庁が公表した「金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書『高齢社会における資産形成・管理』」にて、「夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの無職の世帯では毎月の不足額の平均は約5万円であり、まだ20~30年の人生があるとすれば、不足額の総額は単純計算で1,300万円~2,000万円になる。」という記述がなされていたことが世間で大きく取り上げられ、話題となった問題です。
*3 2020年10月現在 当センター調べ